バンコマイシンによる出血性閉塞性網膜血管炎

摘要

白内障手術時の眼内炎予防策として塩酸バンコマイシンを前房内投与した症例に，きわめてまれながら重篤な出血性閉塞性網膜血管炎（HORV)が生じることが報告された.HORVは抗菌薬を前房内投与することの是非にとどまらず，眼内炎治療におけるバンコマイシンの使用に関しても重い問題を投げかけている.2014年，白内障手術後に重篤な虚血性網膜血管炎を生じた2例が報告された1その後，その2例を含めた6例の出血性閉塞性網膜血管炎（hemorrhagic occlusive retinal vasculitis: HORV)が詳細に検討され，発症原因は塩酸バンコマイシンの前房内投与であると結論づけられた2以前にもアミノグリコシド系抗菌薬のゲンタマイシンやアミカシン，あるいは第二世代セフエム系抗菌薬のセフロキシムにより網膜梗塞が引き起こされることが報告されてきたが，これらは眼内炎などに対する緊急回避的使用時や過剰量の前房内投与という，いわば「有事」における偶発的な事象であった3_4)?しかし，今，問題となっている重篤な網脈絡膜血管障害は，白内障手術時における眼内炎予防策の一環として適正量のバンコマイシンを前房内投与するという「平時」に発症している点で，多くの問題を投げかけることになった.