Descemet膜除去後の医原性水疱性角膜症にリパスジル塩酸塩水和物液が有効であった1例

摘要

背景:白内障手術時操作によりDescemet膜および角膜内皮細胞が除去された水疱性角膜症に対して,ROCK阻害薬である リパスジル塩酸塩水和物液が有効であった可能性のある症例を経験したので報告する.症例および所見:88歳，男性.近医にて白内障手術時に粘弾性物質が迷入してDescemet膜が剝離され,吸引除去されたことによって水疱性角膜症を発症した.角膜 内皮移植術を計画し,待機期間中に0.4%リパスジル塩酸塩水和物液点眼および0.1%ベタメタゾン点眼を2回/日投与した.初診時（白内障手術13日後）には水疱性角膜症を認め，矯正視力0.06?最菲薄部角膜厚949μmであった.経過中，矯正視力 0.05?最菲薄部角膜厚918μm （同20日後），矯正視力0.04?最菲薄部角膜厚850μm （同41日後）,矯正視力0.3?最菲薄部角膜厚756μm （同55日後）,矯正視力0.5?最菲薄部角膜厚577μm （同97日後），矯正視力0.5?最菲薄部角膜厚508μm （同111 日後）と改善を認め，角膜実質は透明化した.また,白内障手術111日後にはスペキュラマイクロスコピーにて遊走したと考えられる角膜内皮細胞が観察された.白内障手術112日後に角膜内皮移植術を施行し,内皮移植183日後に矯正視力は1.0となった.結論：ROCK阻害薬であるリパスジル塩酸塩水和物液点眼は,物理的にDescemet膜および角膜内皮細胞の大半が除去 されて生じた水疱性角膜症に対して，有効であると考えられた.