急性冠症候群に類似した急性大動脈解離の診断と治療

摘要

急性大動脈解離は，動脈硬化性疾患の1つであり，わが国においても頻度の高い疾患である。突然発症 の胸背部痛を典型的な症状とし，ときに病変が冠動脈まで及び，冠動脈灌流障害を合併する。冠動脈灌流 障害を合併した場合，心電図変化からしばしば急性冠症候群と判断されるが，急性大動脈解離とは治療方 針が異なるため，正確な診断が救命には必要不可欠である。鑑別診断のためには，詳細な病歴聴取，身体 所見の把握，各種の画像検査が有用であり，総合的に判断することが重要である。とくに救急外来では，経胸壁心エコー図検査で，大動脈弁閉鎖不全症や心嚢液貯留，大動脈内のflapの有無を評価することが 望ましい。冠動脈灌流障害を合併した急性大動脈解離の予後は不良であり，ただちに外科的な大動脈の修 復術を行うか，経カテーテル的に冠動脈の血行再建を先行するか，治療方針は定まっていない。治療成績 の向上のためには，今後のさらなる検討が必要である。