走査プローブ生体分子イメージングにおけるデータ駆動型解析

摘要

人類の科学の歴史は，物質や現象を要素に還元し，要素間の関係を精密に記述することにより発展してきた。物質科学や生命研究の歴史を見ても，分子の単離·精製，分子構造の精密解析をもとに，新物質の合成，システム構築，現象の理解が行われてきた。一方，これまで目覚ましい成功を収めてきた還元主義的な科学の在り方に行き詰まりも現れている。特に生命科学，生態学，環境科学など無数の要素と相互作用を含む複雑系の科学では，全ての要素を把握することは困難であり，「仮説→実験→検証→仮説の修正」のサイクルの出発点である最初の仮説の正当性が疑わしい場合が少なくない。このような中で計算機の能力の飛躍的な進歩を受けて，データこそ真であると考え，データを出発点にモデルや因子の確率分布や寄与率を評価する考え方が大きく発展してきた。本特集の主題であるソフト界面は複雑系の典型である場合が多く，データ駆動型の方法論が有効である。本稿では，機械学習の主なツールでもあるベイズ推定と主成分分析を取り上げる。原子間力顕微鏡観察で得たトポグラフ像の解析にベイズ推定相関分析を適用した例と，走査型プローブエレクトロスプレーイオン化法を用いた質量分析によるイオンイメージの解析に主成分分析を適用した例を紹介する。