円偏光放射光を用いた軟Ⅹ線内殻磁気円二色性による磁気多層膜·ナノクラスターの磁性解明

摘要

不対d電子を有する遷移金属（TM）元素は,0次元原子においてはHund別により原子スピン磁気モーメントを有する。 しかし，3次元バルク固体で，原子磁気モーメントが長距離秩序をもった強磁性を示す遷移金属はFe，Co，およびNiのみであり，4dおよび5d遷移金属は強磁性を示さない．しかし80年代からの理論は,表面·界面·ナノクラスターにおけるFe，Co，Niの磁気モーメント増大を予言した。 さらに最近の理論は,バルク固体で非磁性の多くの3d，4d,5d遷移金属も，これらの擬2次元系では局在磁気モーメントをもっことを予言する．これは強磁性の起源にかかわる古くて新しい問題であると同時に，物質の凝集状態の次元と電子の局在·非局在性が磁性に重要な役割を果たすことを強く示唆する。 したがって,0次元系原子と3次元系バルク固体の中間に位置する擬1.2次元局在電子系における磁気状態の研究は,磁性の本質を解明する新たな知見を与えるだろう．また，このような低次元局在電子系においては，3次元バルクでは見られない新しい現象と応用も期待される．実際，近年フェルミ波長（～数A）程度に界面を制御した磁性金属人工格子·多層膜が製作され，垂直磁気異方性（PMA），巨大磁気抵抗効果（GMR),層間振動交換相互作用,スピン偏極量子井戸状憩,スピントンネリングなどの応用に直接結びっく新現象が見いだされた．またナノクラスターの磁性が俄然注目され始めている.ごく最近は，MBE法を用いて金属再構成表面上に磁性ナノクラスター（量子ドット）やナノワイアーを自己形成させ，STM観察によりミクロ構造を確認することも可能になった。 磁気記録媒体への応用には特にPMAが重要である。