同位体環境科学一第3講安定同位体比によるプロセス解析一

摘要

1.はじめに天然の安定同位体比を指標として活用することで、大きく分けて2種類の環境科学的に有用な情報を引き出せる可能性がある.これを模式的に示したのが図1である.まず図laに示したのは、対象元素(もしくは対象元素を含む物質)の起源に関する情報が引き出せるケースであり、次に図lbに示したのは、その対象元素(もしくは対象元素を含む物質)が途中で経てきたプロセス(=挙動)に関する情報が引き出せるケースである.図laに挙げた起源に関する情報の指標となる同位体比は、本稿で取り扱う軽元素の安定同位体比だけではない.むしろ反応性の乏しい希ガスやその質量数に対して同位体相互の質量数差が相対的に小さい重元素、イオン結合性の金属元素、あるいは起源ごとの同位体比の変動幅の大きな放射性元素の同位体比を用いる方が有用な場合も多い(「同位体環境科学」シリーズの第1、第2および第4講参照).一方、図lbに示した挙動に関する情報が引き出せるのは、共有結合性の大きな軽元素の安定同位体比に特徴的なもので、起源の考察を目的とする場合には邪魔になる同位体分別を逆手に取って、プロセス解析(大気科学分野の場合は大気中での反応過程の解析など)に応用する方法である.「同位体環境科学」シリーズの第3講である本稿では、まずこの安定同位体比の同位体分別を利用したプロセス解析手法に関して解説し、続いてこの同位体分別の一部を補正して各種指標として活用する最新手法について解説する.