ベンゾジアゼピン受容体作動薬が神経幹細胞の増殖能に及ぼす影響

摘要

ベンゾジアゼピン（BZD）受容体作動薬は，睡眠薬として臨床で広く使用されている。GABA_A受容体サブユニットであるBZD受容体は(omega)1型と(omega)2型に分類され，このサブタイプに対する薬物の選択性が，睡眠薬を開発する上で重要であると考えられている。 一方，自己複製能と多分化能を有する神経幹細胞はヒト成人の脳内にも存在し，神経再生に重要な役割をしていることが明らかになってきた。 しかし，BZD系薬物の神経幹細胞に対する効果はこれまで報告されていない。そこで，我々は神経幹細胞におけるGABA_A受容体サブユニットの遺伝子発現を調べ，様々なBZD系薬物の神経幹細胞の増殖能に対する効果をin vitroで検討した。 胎生15．5日目のマウス線条体原基より神経幹細胞をNeurosphere法により培養し，RNAを抽出して，BZD受容体の遺伝子発現をRT－PCR法にて検討した。 さらに，EGFによって惹起される神経幹細胞の増殖能に対するBZD系薬物の効果を，WST－8アッセイによって評価した。培養神経幹細胞は，GABAA受容体サブユニットα2，α3，β2，β3mRNAを発現しており，(omega)2型のBZD受容体を発現しているが，(omega)1型のBZD受容体を発現していないことが明らかになった。 また，非選択的BZD受容体作動薬のジアゼパム，トリアゾラム，プロチゾラムはいずれも濃度依存的に神経幹細胞の増殖能に対して抑制効果を示したが，選択的(omega)1型BZD受容体作動薬のゾルビデムは，神経幹細胞の増殖能に全く影響を与えなかった。 以上の結果より，神経幹細胞は(omega)2型BZD受容体を発現しているが，(omega)1型BZD受容体は発現していないこと，(omega)2型BZD受容体作動薬によって増殖能が劇的に抑制されることが明らかとなった。また，神経幹細胞は神経再生に重要な役割を果たしているので，脳変性疾患等に伴って出現する睡眠障害の治療には，選択的(omega)1型BZD受容体作動薬が効果的である可能性が示唆された。