新修·意釈『東洞先生答問』

摘要

去冬毎々伺い奉り候、嘔吐の病人、御指図の通り、小柴胡湯と小半夏場との合方に大呂円を兼用仕り侯えども、一向に嘔吐は止み申さず侯、前々の通り、臍傍の左より右脇下へ、斜めに指し詰め侯様に覚え、苦しき候故、求めて吐き申し候えば、楽に成り申し候、大便は大呂円を用い侯、而れども下り申さず候、水気は甚しき候段申し上げ候処、平水丸も然るべきとの由、被り仰せ下さり候えども、月迫り、多用の由にて休薬し、当春はいまだ服薬仕らず侯、然る処、頃日病人の親罷り越す、而るに十年己前、徴瘡にて軽粉剤を服用、癒は治り申し侯、差ゆる後、右の通りに御座候申し開き候、而して此の処、今一応伺いくれる候様頼み申し候、如何仕るべきか、小人が大勢を手掛け候内、八年以前、江戸表にて軽粉剤を服用し、其の後よだれ止み申さず、夜中に大なる器に五盃七杯づつ吐き申し候由申し開き候、其の上便毒の所へ痛み発し候故、軽粉下だしを用い侯、而るに七宝用い侯処、全快仕り候、去年も軽粉剤を服用仕り、長々よだれ止み申さず者、是れも軽灯下だしを五七日用い侯、而して治り申し侯、臆見ながら、右の嘔吐の病人も、軽粉の毒残り居り侯、而れども服薬の功は御座無き侯かと、疑惑生じ申し候、病人の親が申し候処、服薬の功は御座無く、引き合い相い考え候処、不審に存じ奉り侯故、伺い奉り侯、尊慮を委曲被り聞き仰せ、被り下さるべく侯、後世医の軽粉剤と申すもの、皆々よだれ薬にて、少しも下利の手は御座無き侯間、決して薬毒残り申すべしと存じ奉り候、此の処、如何御座有るべきか、小人には合点参り申さず候。