第39回獣医疫学会学術集会 1)シンポジゥム'狂犬病の疫学とその対策一獣医疫学が社会に果たす役割一'台湾における狂犬病の疫学と我が国における診断能力向上の取り組み

摘要

はじめに狂犬病は，世界中で毎年55,000人以上が死亡している 動物由来感染症（Zoonosis, 人獣共通感染症）である。いつ たh狂犬病を発症すると急性，進行性，致死性の脳炎を示してほとhどが10日以内に100%致死する。患者の99% 以上は狂犬病を発症したィヌによる咬傷が原因であり，そ の30-50%は15歳以下の子供である。アジアは世界有数 の狂犬病流行地域であり毎年24,000人以上が狂犬病で死 亡している。WHOは東南アジアの10億人以上が狂犬病 の暴露にさらされており，毎年の咬傷被害者が1,900万人， 曝露後予防接種(PEP:post-exposure prophylaxis)が 400万 人を超えていると報告している'—3)。近年.中国，インド， インドネシア，フィリピン，ベトナム等で狂犬病の発生が 拡大していることを考えると.狂犬病は獣医領域が公衆衛 生に果たす役割の大きいまだ忘れ去ることのできない動物 由来感染症である。アジアでは今もィヌの狂犬病対策が極 めて重要な公衆衛生上の課題である。しかしながら.1993 年から韓国と北朝鮮の国境沿いに生息するタヌキに狂犬病 が発生しており，また，1994年から中国の安徽省 - 折江省 -江西省に生息するィタチアナグマで狂犬病の流行が報告さ れている。アジア地域の野生動物における狂犬病の疫学が 気になるところではあるが,半世紀以上も前に狂犬病を淘 汰した台湾で，2013年に狂犬病が何十年も前から在来の ィタチアナグマに維持されていたことが明らかになつたこ とは特に大きな驚きであった。幸いに，日本にィタチアナ ダマは生息しておらず感染症法によって2003年から輸入 禁止となっている。台湾で経験されたィタチアナグマの狂 犬病の疫学を知るとともに我が国における狂犬病の対策に ついても理解を深めることができればと考える。