住民だれもが主人公の山くじら物語: 獣害対策からはじまった地域づくりは無限に広がるパズル

摘要

島根県の中央部に位置し，江の川が縫うように貫流している美郷町は平成16年10月に旧邑智町と旧大和村が 合併した人口 5500人の町である。総面積282.92平方キ ロメ一トルうち山林面積が89%を占める山間地であり， 少子高齢化と過疎化の問題という全国共通の問題を有し ている。公共交通機関も少なく，各集落は江の川の氾濫 原や支流の流れる山間に点在した居住空間では特筆すベ き産業や観光地もなく，不便さを悲観すれば限りないこ の地が"山くじら（イノシシ肉）物語"の舞台である。ィノシシを主とした獣害問題が中国地方で深刻になり はじめた平成7年頃当時（旧邑智町時代）は，農作物被 害を防止するための捕獲駆除班を獵友会へお願いし，ィ ノシシ1頭当たりの捕獲奨励金6千円を尻尾と引き換え るという防除対策を実施していた。筆者は平成11年4 月に企画課から異動し，慣例となっていたこのような獣 害対策に疑問を感じた。夏場なのに尻尾確認の際に冬毛 の尻尾が出たり（冷凍保存による不正請求)，獵友会依 存のためイノシシは狩獵期の資源という価値観から夏場 の捕獲には抵抗があるなど，獣害対策が形骸化している ことに気づいた。