1940-1950年代における朝鮮民主主義人民共和国の企業経営システム－支配人唯一管理制の成立とその問題点

摘要

本稿は，朝鮮民主主義人民共和国が最初に導入した企業管理体系である，「支配人唯一管理制」（以下，唯一管理制）について検討したものである。同国の企業管理体系に関する先行研究は多数あるが，それらのほとhどは，1960年代に入ってから導入された「大安の事業体系」に関するものであり，唯一管理制に関する詳細な考察は，その重要性にもかかわらず，十分になされてこなかった。本稿では，北朝鮮の企業管理体系の特徴を，歴史的発展過程という観点から把握する上で，唯一管理制に関する分所は不可欠であるという問題意識に立ち，特にその企業内組織構造と経営活動の実態に焦点をあてて検討を行った。その結果，北朝鮮がソ連をモデルとして自国の企業管理体系を構築することで，ライン＆スタッフ型の近代的な経営組織を導入するに至ったことが明らかになった。また，『労働新聞』などの報道から，唯一管理制が実施されていた当時の北朝鮮において，ライン＆スタッフ型組織を採用した企業所の運営に多くの混乱が見られたこと，それにもかかわらず，北朝鮮企業が，近代的経営組織の利点を活かすための方法を模索していたことが観察された。同時に，企業所内における党団体の存在が，組織内の意思決定に混乱をもたらす構造的要因となっていたことも示された。