昆虫の性決定機構 －性決定の鍵を握るスプライシング

摘要

昆虫の性決定機構は，モデル生物として名高いショウジョウバエを材料とした研究によって最初に明らかにされた。 そのメカニズムは哺乳類とはまったく異なる。 最大の違いをあげると，哺乳類ではまず生殖巣において性決定が行われ，そのシグナルがテストステロンなどの性ホルモンを介して全身に伝えられるが，ショウジョウバエは性ホルモンをもたない。ショウジョウバエは性ホルモンをもたない代わりに，全身を構成する個々の細胞（体細胞）において性決定が行われるのである。 もう一つの違いは，ヒトやマウスの性は，Y染色体の存否に依存して決定されるが，ショウジョウバエの性はⅩ染色体の総数と常染色体（A）のセットの数の比（Ⅹ：A比）によって決まる1）。 すなわち，2本のⅩ染色体と2組の常染色体をもつ個体ではⅩ：A＝1．0でメスとなり，1本のⅩ染色体と2組の常染色体をもつ個体はⅩ：A＝0．5でオスになる（図1）。