擬態の一面をさぐる ―昆虫の体表紋様形成の分子機構

摘要

ァゲハには紋様や体色を利用したさまざまな擬態が見られる。特に幼虫の紋 様が切り替わる仕組みや紋様形成の分子機構について詳細がわかりつつあ る:.…-方，カイコには幼虫紋様の変異体が多数ある.その中の褐円(L)の原因遺伝子はであることがわかった。籙翅目昆虫の紋様形成の分子機構 から擬態の一面が垣間見えてきた。紋様や形を何かに似せて捕食者など を騙す「擬態」は広範な生き物に見ら れるが，特に昆虫にはわれわれを感嘆 させる精緻な擬態がよく見られる。昆 虫は中型、小型の動物から捕食される のに適当なサイズであるため，他の生物群に比べて捕食圧が高く，捕食者か ら逃れる多様な擬態戦略を進化させて きたと思われる。最もよく見られるの は，周りの環境（大概の場合，植物） に紛れる隠、型の擬態であるが，葉， 枝，枯葉，芽，花などありとあらゆる 植物のパートに似せる技は見事という ほかない。われわれがなぜこのことを 不思議に思うのかというと，生き物と してはまったく異なるはずの「昆虫」 と「植物」の形態や紋様が酷似する， そのような収斂的な形態形成の背景が 理解できないからだ。つまり，「この ようなことは発生学的な"常識"に反する」と子供ですら直感してしまう謎 である。体の一部が枯れて欠いたよう に見えるコノハギスの一種の写真を見 るにつけ，そのような発生上の可塑性 がどこに秘められているのかを考えて しまう。たとえそれが自然選択のなせ る業としてでも，である。