蘚苔類の香気および呈味成分：香粧品，食品および医薬品への応用（1)

摘要

蘚苔類は3億5000年前あるいはもっと古い時代から現在までその形態を維持したまま海以外に分布する膨大は植物群である。これまで世界で20000以上の種が確認され，現在でも熱帯雨林地域からはもちろh，わが国からも次々と新種が発見されている。蘚苔類は分類学上，藻類とシダ類の中間に位置し，蘚類 (Bryophyta ：mosses 14000), 苔類（Marchantiophyta ： liverworts 6000）およびツノ ゴケ類（Anthocero-tophyta：hornworts300）が知られている。また蘚苔類のうち，苔類のみ細胞に油体（図1)を含み，そのニ次代謝物はこれまでの我々の半世紀にわたる植物化学 的研究により脂溶性terpenoids,芳香物化合物やpolyketidesであり，これまで数千の二次代謝物質が単離，構造決定されている。その中には未だ他の動植物や菌類には見られない60を超す新規骨格を有するものも含まれている。一方蘚類は二重結合や三重結合を含む高級不飽和脂肪酸，alkanes，alkenes，植物steroids, flavonoidsが王要成分であり，triterpenoids なども多少確認されている。またツノゴケは桂皮酸誘 導体やlignanes類，flavonoids,植物steroidsなどが少量存在する。蘚苔類は分類学上，3綱にまとめられているが，この様に3綱の化学成分は大きく異なり，蘚苔類の系統分類学や進化，分化を考察する上で，それぞれの二次代謝物は重要な指標化合物である。特に苔類化合物は科，属，種の分類に極めて重要な指標として認識されている。また苔類は独特の香気や呈味を有し，さらに抗菌，抗黴，抗酸化，筋肉弛緩，細胞毒性，抗腫瘍，殺虫，魚毒等，医薬学的に興味ある生物活性物質を含有する。われわれは苔類の香気，呈味成分や溶媒抽出物から香桩品，食品および医薬品への展開を試みており，本稿ではすでに各種討論会で発表した内容，また最近内外の学会誌に掲載されたわれわれの論文や著書から苔類香気，呈味成分の化学構造および食品や潜在的医薬品への応用など，それらの最近の成果について概説する。