脳神経倫理への招待-脳科学の'高度医療化''脱医療化'の視点から

摘要

2008年より，日本神経科学会は，"ヒト脳機能 の非侵襲的研究"の倫理問題等に関する指針の改 訂を進めている（この原稿が掲載されるころには 新しい指針が公表されているかもしれない）. 旧指針の発表から10年近くが経過し，ヒト脳研 究をめぐる状況は大きく変わってきた.特に核磁 気共鳴画像(Magnetic Resonance Imaging ： MRI)を用いた機能MRI研究の発展は目覚しく ，医療現 場ではMRIを用いた拡散テンソル画像によって より詳細な脳の組織構成を可視化し，診断治療に 役立てている.また，医療機関以外の研究施設へ のMRIの普及も急速に進hできた.2002年には 国際電気通信基礎技術研究所(ATR)の関連会社で あるATR脳活動ィメー ジングセンタ一がMRI 施設の貸し出しと技術支援を有償で行う事業を開 始した.高齢者や乳幼児を対象とした機能MRIや 近赤外線分光法(near-infrared spectrometer ： MRS) による認知神経科学実験も盛hになり，それまで 脳科学とは無縁だった研究者層，被験者層の参入 がここ数年で急速に進hでいる.