組織培養を利用した希少自生植物の種苗生産技術第1報　エヒメアヤメ（Iris rossii Baker)

摘要

広島県内に自生する希少植物，エヒメアヤメの組織培養による種苗生産体系を確立するため，種子の休眠打破と発芽促進および種子からの多芽体誘導による増殖法について検討した。 1.エヒメアヤメ種子の休眠打破は，40 deg Cでは30日間で効果が認められたが，0～20 deg Cでは90日間必要であった。 また，低温処理時の種子は湿潤状態で発芽率が高かった。 2.低温処理種子は，温度15～250 dge Cの間で発芽するが，光のある方が発芽率が高かった。 また，発芽速度には大きな個体差が見られ，低温処理後7～14日目から少しずつ発芽するが30日経って発芽する個体も認められた。 3.低温処理種子からの多芽体誘導は，低温処理後2～3週間してBA 2.0＋NAA O.2mg/l添加NN培地に移植すると誘導率が高まった。4.誘導した多芽体は，分割して同一培地で継代培養すると分けつ数が増加した。 伸長したシュートをホルモンフリーのMS培地に移植して培養すると，発根した培養苗が得られた。 5．順化した培養苗はポットで養成した後，公園内に植栽すると順調に生育し翌年には開花が認められた。 また，培養苗を鉢植えで栽培管理すると戸外での鉢花生産が可能であった。 6.この方法は，自生株に結実した子を培養材料として用いるため，種の保護に役立っと共に種苗の安定供給も可能となり，園芸的利用を目的とした種苗生産手段として有効である。