性決定の遺伝学

摘要

「性決定」とは，個体の性が雄または雌に決定されることである。 「遺伝学の歴史において『性決定』は特別の位置を占める」と言われる。 その理由は第一に，動物の発生現象の中で，性決定はメンデルの法則に従う初めての事例だったからである。この件に関連する最初の発見は，H．Henkingによる「ホシカメムシの一種（Pyrrhocoris apterus）の精巣の減数分裂前期では他と染まり方が異なり異常な行動をする染色体がみられる」というものであった。この染色体は，同じ頃W．K．Roentgenが発見したX線の“Ⅹ”と同じく「正体不明」という意味で「Ⅹ染色体」と命名された（1891）。 後年，C．E．MacClung（1902）やE．B．Wilson（1906）らは，カメムシ類の雌はⅩ染色体を対（XX）でもつのに対し，雄には1本しかない（XO）ことから，Ⅹ染色体が2本か1本か（XX－XOシステム）によって雌雄が決定されるとし，この性別と連関する染色体を「性染色体」と名づけた。