渥美半島西ノ浜の潮間帯においてヒガシナメクジウオ(脊索動物門：ナメクジウオ綱：ナメクジウオ科)を確認

摘要

脊索動物門頭索動物亜門に属するナメクジウオ類は，脊椎動物に近縁な無脊椎動物として知られ，脊椎動物への進化の生き証人と言われる(窪川，2006).このため古くから形態学や発生学など生物学の諸分野で注目されてきた.ナメクジウオ科Branchiostomidae に属するヒガシナメクジウオBranchiostoma japonicum (Willey, 1897)は，日本に分布するナメクジウオ類の1種である.本種の和名はかつてナメクジウオとされていたが.ナメクジウオ類の総称との混同を避けるため，安井·窪川(2005)によりヒガシナメクジウオが提唱された.学名はかつてBranchiostoma belcheri が用いられていたが，遺伝情報から真のbelcheriと 日本産種は別種であることが判明し，本種に対する最も古い適格名であるB. japonicumが有効名となる(西川，2007).本種は，日本では铫子付近以南の本州太平洋沿岸や瀬戸内海，九州，丹後半島沖に分布し，潮間帯下部から水深75mまでの透水性が高く有機物の少ない粗い砂底を好んで生息する(西川·水岡，1990).通常は砂底に浅く潜っており，砂のすき間や砂粒の表面に存在する微小な有機物粒子を摂食している(逸見ほか，2000).かつては全国各地の砂質干潟に多産していたが，近年多くが絶滅または絶滅寸 前になっており，潮下帯でも多くの場所で個体数が減少していることから，海岸ベントスのレッドデータブックでは準絶減危惧として登載されている(逸見，2012).また，和田ほか(1996)では「希少または危険」に，水産庁(1998)では「危急」にランクされている.このほか，日本のレッドデータ検索システム(野生動物調査協会· Envision環境保全事務所，2017)によれば，2017年1月現在，計8県で準絶滅危惧以上のカテゴリに指定されており，内湾の環境指標種としての関心の高さを示している(木村，2005).