コーセー先端技術研究所

摘要

コーセー先端技術研究所の建設は，この敷地にあつた研究所と板橋の研究所を集約することで研究者を集め.コミュニケーションを活性化させ，イノべーションを起こすことを目的とした事業である.容積率の低い住宅地に，ふたつの研究所をひとつにまとめるだけでも難題であり，さらにイノべーションが起こりやすい空間をつくるというのは難題中の難題である.そこで，研究者全員に既存の研究所での日々の動線を図面上に描いてもらい，それに加え，どういつた状況で新しい発想や発見があったかなど，アンケートやヒアリングを重ね，深めることを試みた.その膨大な情報をもとに，各諸室の複雑な関係性をコンピュータプログラムに入力し，引力と斥力の作用のように，強い関係のゾーンは引き合い.弱い関係のゾーンは離れるァルゴリズムによって，各グループの動線が効率化するゾーニンクを追求した.研究者たちの研究の習慣を考現学的に研究していくことで，従前は各研究グループごとにラボ•デスクスペースがまとまった構成であつたが，最終旳には，ラボサポートを除き，機能ごとに場を集約することで，効率的かつ.グループの垣根を超えて，研究者同士のコミュニケーションが生まれやすい構成となった.デスクスペースは採光がとれる最上階に集約し，ラボスペースは2階に集約.さらに利用が稀な一部のラボサポートは1階に置き，地下には大人数のカンファレンスのほか，読書やランチのためのスペースであるホールを南北のサンクンガーデンと繋げて設け，階層ごとに用途が異なる構成としている.さらに研究者同士が共有する実験台や流し台.クリーンベンチ.棚などのひとつひとつを，台所を設計するように研究者たちと調整することで，ひとりひとりの研究動線を効率化し，廊下が不要な構成とすることでドアを減らすなど，研究者が感じる煩わしいものを取り除いていった.また，階段，通路.トイレ，休憩スぺースやテラスなどの共有スペースを，設備配管隠しのためでもある透かし積みの煉瓦に囲まれたサンクンガーデンの周りに配置した.日々繰り返す研究のための研究者のシークエンスは，徹底した効率性を保ちながら，刻々と変わる光や，徐々に育つていく緑や花に彩られていくことになるだろう.この研究所が使われ始めてから，隣接する研究所の内部レイアウトがこの研究所での動線計画に倣い変更された.それは今回の試みが一定の効果があったことの証左となるのではないだろうか.