哺乳類腸内における窒素固定

摘要

背景および目的：酸素や炭素，水素と同様に，窒素は生物の成長と維持に重要な元素である.窒素自体は地球上に豊富に存在するものの，その多くは生物の利用できない不活性な分子状窒素である.それゆえ，他の元素に比べて利用可能な窒素はしばしば不足する.窒素固定細菌は，生物学的に不活性な分子状窒素をアンモニウムへと変換させる（窒素固定する）ことで，窒素の枯渴した環境においても生育できるユニークな細菌である.マメ科植物や草食性昆虫は，窒素固定細菌と共生することで，貧栄養な環境においても繁茂することができる.最近我々は，ヒトを含む哺乳類の腸内から窒素固定細菌を分離した.近年，腸内細菌が難消化性繊維を分解することで，宿主に糖質を供給していることが示されており，その働きの多様性が示唆されている.これらの知見から，腸内の窒素固定細菌が，空中窒素を固定し，宿主に供給している可能性が考えられるものの，未だ検証されていない.そこで本研究において，窒素固定細菌のみを有するマウスモデルを構築し，そのマウスの腸内において窒素固定が行われるかどうか，また固定された窒素がマウスの窒素代謝に寄与するかどうかを実験的に検証した.