浸炭異常層の性状が耐ピッチング特性に及ぼす影響

摘要

自動車用の駆動系部品である歯車の破損は，歯元折損や歯 面での焼付き，スポーリングなど種々の原因により生じるこ とが知られている。近年では，燃費向上を目指した潤滑油の 低粘度化や部品の小型化により歯車の使用環境は益々過酷化 する傾向にある。特に歯面での表面起点はく離（以降，ピッ チング）に対しては，鋼材成分や熱処理を合わせた対策が必 要となっている。歯車部品は，じん性と強度を両立させるために肌焼鋼を浸 炭し，表面を硬化して使用することが一般的である。国内に おける歯車の浸炭方法には，ガス浸炭焼入焼戻しが多く適用 されている。このガス浸炭後の鋼材表面には，粒界酸化や不 完全焼入組織といった浸炭異常層と呼ばれる組織が形成す る。その過程は，ガス浸炭で使用されるキャリアーガス中に微量に含まれる酸素が，浸炭中に表面近傍のSi, Mn, Cr などのFeよりも酸化しやすい元素と結合することで主とし て粒界において酸化物を形成する。その結果として，粒界酸 化物の周囲で合金元素量が局所的に少なくなり，焼入性が低 下し.浸炭焼入れ時に表面近傍でパーライトやべイナィトを 形成する。