前川国男を受けとめた弘前の自借

摘要

すでにこの雑誌を読んでいる人であれば周知の事実だが、弘前には前川国男設計による建築物が数多く存在している。工作物も含めて全部で10作品のうち、建築物全8棟が、彼の生まれ故郷でもない津軽の他に現存しているという事実に、建築関係者なら驚きを禁じえない。しかも、彼の記念すべき処女作と言われ、師匠のコルビュジェを彷彿とさせる白亜の「木村産業研究所」（1夕52）から、晩年の名作「弘前市斎場」（1タ85）まで、ひとりの建築家の27歳から78歳までのおよそ50年という道程が、東北を代表する城下町のひとつである弘前市の中心市街地に、計算されたように点在した建築物から見えてくるのである。