尾道空き家再生プロジェクト

摘要

映画『東京物語』で小津安二郎監督が「両親の住む日本のとある地方の小さな町」として選んだのが広島県尾道市である。50年以上経った今なお世界中で高く評価され、映画のなかで尾道の町並みはそれほど登場していないのにもかかわらず、大都会東京と対照的な地方の町として、驚くほど人々の印象に残っている。そんな日本の原風景的町並みも社会の流れとともに刻々と変化し、瀬戸内海きっての港町として栄華を極めた歴史的遺産ですら簡単に失われようとしていた。辛うじて変わらない風景をとどめているのは車の入らない、いわゆる条件不利地の坂と路地の木造住宅密集エリア。それらは尾道独特の風景として広く伝えられているが、一方では、車中心の社会から取り残され、少子高齢化の問題を抱える空き家だらけのエリアである。そこで起きていることは、まさに『東京物語』さながらで、息子たちは都会に出たまま帰らず、年老いた両親も古びた家もそのまま放置され、高齢者の独居暮らしの家や家財道具がそのままの空き家がたくさん残っているありさま。海を望める眺めのいい家ですら、車の入らない不便さや家の古さを理由に地元の不動産屋にも割に合わないとさじを投げられ、物件化されていない。そんな空き家が駅から2キロの徒歩圏内に500軒以上溢れているという状態であった。