テクニカル·アプローチの始まり

摘要

これまで見てきたように、組立住宅「プレモス」、続く「紀伊國屋書店」と「慶應大学病院」などを手掛けることによって、敗戦直後の前川事務所は、進駐軍の仕事を請け負うことなく、曲がりなりにも近代建築の本筋を貫きながら設計活動を続けることができた。そして、続いて、日本無尽株式会社(1951年10月に株式会社日本相互銀行へ転換)から、多くの支店群と本店の設計を依頼されることになる。前川事務所に残された作品年表によれば、その始まりは1948年、木造の「亀戸支店」と「渋谷支店」からである。それは偶然にも慶應大学病院の竣工した年でもあった。こうした仕事の流れを振り返れば、綱渡りとさえ思えるような事務所経営の危うい実態とともに、木造バラックという制約下にありながらも、一つひとつの建物を堅実にやり遂げていく前川の姿勢と人柄によって、社会的な信頼を得ていった軌跡が浮かび上がって見えてくる。