微分要素を含む非線形システムに対するデータ駆動型制御系の一設計

摘要

油圧ショベルでは，PV制御が広く用いられている.PV制御はポンプ(Pump)およびバルブ(Valve)を制御することにより，配管内部圧力Pおよびその内部を流れる油の流量Qを制御する方式である.ここで，一般的にはポンプトルクを一定に保つために静的補償器としてPQ制御が用いられている.しかしながら，PQ制御では，ある固定環境下における測定データが使用されたPQマップを静的補償器として実機に搭載しているため，極度の低温環境下などにおいては機体初動時における応答性や追従性が悪いという問題があった.この問題を解決するために，これまで様々な環境条件下においてデータを測定してPQマップが作成されている.さらに，得られたPQマップに制限をかける手法もとられている.しかし，静的補償を行う方法では，機体駆動条件があまりにも多いことから問題の解消はできていない.そこで，静的補償器に加えて動的補償器も用いられるようになった.ここで，動的補償器はPID制御器である.この理由として，PID制御器は制御構造が簡単であることや，制御パラメータの物理的意味が明確であるということがあげられる.さらにPID制御器は線形時変システムに対して有効であるため，様々な環境条件下において駆動する油圧ショベルに対しても有効であると考えられた.しかしながら，従来の固定PIDパラメータによる制御器では，システムが非線形性を有している場合の過渡状態における応答性が良好でなかった.さらに，油圧ショベルのように非線形性に加えて微分要素を含hだシステムの場合，PID制御器の積分要素がシステムにより相殺されるため，所望の目標値への追従性を確保できない問題がある.