農業生産における環境負荷低減の試み

摘要

農業の一般的なイメージは，環境に優しく，自然と共生した生産方式のようであるが，実は大きな環境負荷を発生していることが様々なデータから知られるようになってきた。 欧米では農業生産に伴う環境負荷という共通認識が早くから成立し，特に酸性雨や硝酸性窒素に対する対策が打ち出されてきていたが，日本もウルグアイラウンドの農業交渉を契機に，環境保全型農業への政策転換を図っている。日本は降水量も多く，水田が浄水機能を果たしてきたため，地下水汚染などの問題が顕在化してこなかったといわれる。 しかし1990年代になって，集約的な多肥栽培や家畜糞尿に由来する地下水の硝酸性窒素濃度上昇が各地で指摘されるに至っている。 一方，化石燃料の消費に伴う二酸化炭素の環境負荷について，日本の農業分野での認識は極めて低い。 図1に示すように，1970年代の2回にわたる石油危機以来，製造業の分野では省エネルギー技術の進展とエネルギー効率の高い産業への転換によって，最終消費エネルギーは抑制されてきたが，農林水産業の消費エネルギーは依然として右肩上がりの状態が続いている。 農林水産業部門の硝費エネルギー内訳は石油製品96％，地熱0.8％，電力3％となっている。 製造業の石油製品への依存度が45％であるのに比べて，農林水産業の石油依存度は突出して高い。 つまり，消費エネルギーのほとんどが機械や加温機の燃料であり，多量の二酸化炭素を排出していることになる。