技術の伝承と学会の役割

摘要

私は入社以来30年以上にわたって鉄鋼会社における腐食防食の研究に携わって来ました．仕事内容は主に耐食材料の開発と腐食問題の解決でしたが，入社当時は周囲に何人もの腐食研究者がおり，議論を通じて色々と教えてもらいながら研究を進めていました．とはいっても足元の問題解決に追われることが多く，実際の腐食現象を観察し，再現実験を通じて原因を考察するなど，どちらかといえば経験に頼る仕事の進め方になっていました．今のように優れた解析装置や分析装置もあまりなく，基礎的な研究はどちらかといえば後回しになっていました．後になって当時基礎的な素養がもっとあれば，より簡単に問題解決できたのではかいかと思うことが多々あります．一方で，基礎的な知識だけで実際の問題を解決できるかというと，それほど単純なものではなく，経験に裏付けられた知識，発想も必要であり，経験と最先端の知識をバランスよく身に付けていくことが必要だと考えています．