人工心臓弁の流体力学的評価と課題（機械的人工弁の歴史的進展と流れを視る流体力学的評価）

摘要

人工心臓弁は，数ある人工臓器の中では最も成功しているものの一つである．人工心臓弁の歴史，即ち，自然心臓弁置換の歴史は未知の分野に対する新しい試みと進化の連続であったといえよう．当初は，心臓外科分野の技術も進んでおらず，開胸手術も未熟であった．1944年から1952年の間に，最初の心臓病の治療の一環として，心臓弁置換に関する実験的な研究が行われたが限られたものであった．勿論，損傷した自然弁の治療は部分的には行われて来たが，修復の困難さから患者の状況によっては，自然弁あるいは人工弁を用いた完全な弁置換が，患者の弁機能回復にはほぼ唯一の方法である事が明らかになってきた．人工心臓弁には大きく分けて，機械弁と生体弁に分けられるが，ここでは機械的人工弁を対象に議論を進めることにする．