藻場による炭素固定量の試算

摘要

地球的規模での炭素循環では，海洋は大気中のCO2濃度の増加に対して有効な炭素貯蔵場として機能しており1），2），2000～2005年には海洋全体で年間22±5億トンの炭素を大気から吸収していると見積もられている3）。　水産基盤整備事業による藻場や覆砂では，漁業生産の向上に併せて，水質浄化，生物多様性向上，大気保全などの環境保全効果が発現される。これらの効果のうち，水質浄化効果については，すでに経済的価値を算出する手法が確立し，水産基盤事業計画における費用対効果（B／C）の項目のひとつとして見積もられている4）。しかし，生物の多様性を高める効果や炭素固定による大気中の二酸化炭素量削減としての大気の保全効果については，経済的価値評価としての算定手法が確立していないため便益額は算定されたことがない。これらの効果を適正に評価できれば，同事業による藻場造成に取り組みやすくなるうえ，藻場の拡大による種々の環境保全効果の国民への周知も期待できる。そこで，本報告では，藻場造成事業の便益評価に大気保全効果を考慮することを目的に，藻場の炭素固定効果の定量化についての考え方を事業の評価と関連させて整理し，さらにその効果の程度をわかりやすくするために貨幣化を試みた。