Midori SAKURA,神戸大学大学院理学研究科生物学専攻（〒657-8501兵庫県神戸市灘区六甲台町1-1)昆虫の偏光コンパスの神経機構

摘要

多くの昆虫は天空の偏光バタ一ンから方向を検出する。偏光のe-べク卜ル方向の情報は，複眼の偏光受容に特化し た領域[dorsal rim area (DRA)]で検出される。DRAで検 出されたe-ベクトル情報は，その後，視葉の視随 (medulla)で3種類の情報に収斂されることから，人間の 3色型色覚のように3種類の異なるニューロンの応答比率 によって符号化される（即時型検出；instantaneous method)と考えられる。Medullaの3種類の情報から任意 のe-べクトル方向を符号化するニューラルネットワークを 構築し，その動作を検証した結果，様々な自然条件の刺激 に対して高い精度で体軸方向を検出できることが明らかとなった。また，コ才ロギ脳内神経細胞からの細胞内記録に より，ネットワーク構築の際に想定したものと同じ応答特 性を持つニュ一ロン群が見つかった。これらのニュ一ロン は特定のe-べクトル方向に対して強い興奮性の応答を示 し，脳内でコンパスの働きをすることが示唆される。さら に，ミツバチの吻伸展反射を利用して偏光刺激のe-べクト ル方向を弁別させる学習実験を行った結果，彼らが偏光刺 激をスキャンすることなく 90°異なるe-べクトル方向を弁 別することが明らかとなった。これらの一連の結果は，昆 虫がinstantaneous methodに基づく偏光視システムを持 つことを強く示唆している。