日本比較生理生化学会第35回大会に参加して

摘要

2013年7月13日から15日までの3日間にわたって，日 本比較生理生化学会第35回大会が兵庫県姫路市にて開催さ れた。本印象記ではシンポジウム2 (日本比較三学会合同 シンポジウム）に関する報告とともに，大会全体に対する 私の意見、感想について述べさせて頂く 。シンポジゥム2は比較三学会合同シンポジゥムとして" Development and adaptation/ acclimatization from the view point of comparative studies"とレ、うテ一マで大会 二日目に開催された。本シンポジウムでは日本比較内分泌学会と日本比較免疫学会からそれぞれ一名ずつと日本比較 生理生化学会から二名の合計四名の先生方による講演が行われた。最初は，日本比較内分泌学会の今野紀文先生（富山大学） による脊椎動物の進化過程における体液調節と環境適応に ついての講演であった。脊椎動物は進化過程において海水 から淡水へと，また，水中生活から陸上環境へと大きな環 境変化に適応してきた。この時に，例えば水中生活から陸 上環境への変化では，体液調節機構は余分な水を排出する機構から，体内の水分量を維持するために水を再吸収する 機構へと全く逆の機能を担うこととなる。陸生の四肢動物では，脳下垂体ホルモンであるバソトシン（VT)が腎臓に おいてV2受容体（V2R)を介して水チャネル（AQP2)の発 現を増加させることにより，水の再吸収を促進することが 知られている。この機構が進化の過程でいつ獲得されたの かを明らかにするため，最も両生類に近縁な魚類である肺 魚を用いて解析を進めたところ.肺魚はV2RとAQP2の祖 先遺伝子と考えられるVT調節性の新規AQP (AQPOp)を 持っており，夏眠状態（陸上適応）の肺魚では，両分子は共 に腎臓に発現し，水の再吸収に働くことが示唆された。ま た，条鰭類にはAQP2に対応するVT調節性AQPが存在 せず，この機構は肉鰭類において獲得されたものと推測さ れた。一方，淡水魚であるメダカでは，V2Rは腎臓におい てNa+/Cl_共輸送体（NCC)を介して塩類の再吸収に寄与 すると考えられた。このように脊椎動物の進化過程におい てV2Rの機能は生息環境の変化に伴って大きく変化したの ではないかとのことだった。私自身，ちょうど現在解析中 の遺伝子に対して脊椎動物内の進化的保存性とその機能に ついて考えていたこともあり.解析について参考となるこ とも多く興味深く聴かせて頂いた。特に体液調節機構の変 化がこのようなわずかな遺伝子の機能変化により説明可能 であるという結果は衝撃的であつた。