ラム波アコースティック·エミッション波頭シミュレーションによる二相ステンレス鋼板の遅れ破壊のダイナミックス

摘要

オーステナイト（γ）·フェライト（α）二相ステンレス鋼は，優れた強度と耐塩化物SCC性のため耐食材料として実績をあげつつある。 健全な組織をもつ二相ステンレスの水素拡散速度は，フェライト鋼の10万分の1程度であろうから，短時間で遅れ破壊感受性を示すことはないと思われる。二相ステンレスがもつ問題の一つは，溶接によってフェライト相が多くなり，HAZの遅れ破壊感受性が高くなることである。本研究の第1の目的は，薄板状二相ステンレス鋼の微視組織と遅れ破壊のダイナミックスをアコースティック·エミッション（AE）原波形解析で調べることである。 一方，IDソー·ブレード（シリコン·インゴットカッター基板）として使用されている強加工準安定オーステナイトステンレス鋼では，加工誘起マルテンサイトが原因と思われる製品欠陥（脆性破壊）が発生することがある。 めっきや保管中に薄板中に拡散した水素による遅れ破壊の可能性があるが，詳細は明らかになっていない。 研究の最終目標は，加工誘起マルテンサイト（α′）·オーステナイト（γ）ステンレス鋼における遅れ破壊の可能性，遅れ破壊発生点と微視組織の関係，破壊のダイナミックスなどの基礎的知見を明らかにすることであるが，組織の不安定な材料を対象とする前に，組織が明確な二相ステンレスの遅れ破壊についての基本的知見を得ておくことが必要である。