胃癌の發育と組織的性状に就て : 第2編 胃癌細胞の組織學的性状並にその全身に擴れる状態

摘要

著者は本編に於ては胃癌剖檢33例につき,癌細胞の胃自體にあらず,全身に擴がれる(轉移)状態を大體淋巴性轉移と血行性(肝)轉移の2方面より觀察し,これ等と胃癌の組織的性状特に癌細胞の組織學的性状との間の關係な探求記述せり。胃癌細胞の組織學的性状を見るに第1編に於けると同様,種々の色素反應により大體漿液性細胞と粘液性細胞の2種に區別するを得たり。轉移の近接淋巴腺のみに止まるもの8例は凡て腺癌なり。又高圓柱形細胞癌の臟器轉移は稀にして,5例中粘液性細胞癌の1例に於て輸膽管内壁に轉移ありたり。而して一般に淋巴性轉移と腹水(癌性腹膜炎)とは合併すること多く,腹水は廣義の淋巴性轉移と見做すを得たり。近接淋巴腺轉移を有して腹水を著明に現したる場合は血行性(肝)轉移甚だ稀なるを認め得たり。これに反し,明かに血行性と認むべき肝轉移例を觀るに腹水を伴ひたるは極めて僅かなり。即ち腹水を高度に起す場合と血行性轉移とは全く逆の例數を常に示せり。こゝに腹水(癌性腹膜炎)と血行性肝轉移の2種の傳播の場合に於ける癌細胞自體の性状並に種類を比較するに,腹水を伴ふ場合は單純癌多く,その細胞自體の性状は粘液性のもの多し。血行性(肝)轉移の場合は腺癌を主とし,漿液性のもの多し。即ち胃癌に於ける症状としての腹水と肝臟轉移とは胃癌の組織學的觀察よりするも,その間に或る一定の區別すべき點あるものと信ず。