時間周波数辞書構築手法及び信号再構成手法による環境音識別に関する研究

摘要

本研究は先行研究である環境音配信システムの充実化に関連して，スマートフォンに代表される多機能携帯端末を利用して取得した周囲に存在する多様な音(環境音)の識別を目的とした研究である．通常の録音機器と比較して，スマートフォンのような制限された機器を用いて環境音を取得する際，雑音の存在と混合音による識別結果への影響が大きな問題として挙げられる．一点目は理想的な機器や環境による取得を想定しないため，端末の操作音など，環境音と直接関係しない音の混入が考えられる．二点目の問題点は，環境音は複数の音で構成されるため，音の時間変化や環境音中に存在する各構成音の特徴を適切に取得する必要がある．取得対象と無関係な雑音への対処として既存の周波数特徴量を独立成分分析による改良を行うことで対象音の特徴を強く反映させ，識別率の改善を実現する．各構成音の適切な特徴取得に関して，Matching Pursuits (MP)法による時間周波数特徴量を導入することで，上記周波数特徴量のみでは識別できない環境音の識別を可能にする．また，MP法による既存特徴量を，MP法の特性であるAtom近似順位に応じて重み付け処理を行った特徴量に改良することで，MP法による環境音識別率が改善できることを提示する．実際にスマートフォンを利用して取得した環境音を用いて，上記提案手法による環境音識別シミュレーション実験を行った結果，既存特徴量抽出手法よりも識別率の改善を実現した． 制限された機器を用いて取得した環境音の識別が可能になることで人手を介することなく，様々な端末を持つユーザからの環境音提供と提供環境音のカテゴライズが可能になる以外に，環境音を取得した場所がどのような音で構成されているかをシステムに学習させることが可能になり，環境音配信システムの充実化に繋がる．また，携帯端末自体に環境音識別システムを実装することができれば，携帯端末を周囲の状況に応じて最適な状態に保つような応用が可能となり，携帯端末利用者への貢献が期待できる．