ルーティングプロトコルOLSRにおけるファジィ論理に基づいた中継ノード選択

摘要

モバイルアドホックネットワーク(MANET)とは基地局やアクセスポイントと言ったネットワークインフラを必要としない端末同士で自律的に通信を行うネットワークのことである．MANETは近年注目を集め，特に軍事，環境センシング，高度交通情報システムなどでの導入が進められている．代表的なMANETプロトコルとしてOLSR（Optimized Link State Routing protocol）がある．OLSRはノード間の情報交換にMPR(multi-point relay node)と呼ばれる中継ノードを指定することで，大規模の高密度ネットワークにおいて低メッセージオーバーヘッドを提供することができる．しかし，OLSRでは，MPRの選択にノードの移動，無線チャンネル特性などを考慮していないという問題点が存在する．MPRノードの選択には，ノード間距離，移動状況，受信信号強度という複数の尺度を考慮する必要がある．しかしながら，これらの評価尺度は互いに相反する．この相反の状況は，MANETにおけるノードの分布や移動速度に依存し，最適解を求める画一的な評価式を定めるのは困難である．また各ノードで保持している情報が不完全，不確かであることが予想される．それにより，MPRノード選択問題は難しい問題となる．そこで本研究では，OLSRに基づき，ファジィ論理を用いた，メッセージ配布効率，ノードの移動，無線チャンネル特性を考慮しデータ転送経路を選択する方式を提案する．提案方式は，ファジィ論理を用いてノード間距離，移動状況，受信信号強度を考慮し隣接ノードの中継ノードとしての適切性を評価する．この評価値をもとに，MPRノードの選択とルート選択を行う．提案プロトコルは，ファジィ論理を利用することにより，人間と似た推論を行うことが可能になり，複雑なシステムを制御することが可能となる．さらに本研究では，ネットワークシミュレータQualNetを用いてプロトコルの性能評価を行う．シミュレーションでは，ノードの移動モデル，フェージングモデルを用いて，より現実的なMANET環境を模擬する．様々なシナリオにおいて，提案プロトコルを評価し，OLSRと比較する．ノード間距離，移動状況，受信信号強度の複数の尺度を考慮し通信経路を選択することにより，提案プロトコルはOLSRより著しく高いパケット到達率を提供できる．