音叉型水晶振動子による単結晶グラファイト基板上4He吸着膜の摩擦測定

摘要

本論文は、音叉型水晶振動子を用いた低周波での水晶マイクロバランス法による膨潤単結晶グラファイト基板上の4He吸着膜の摩擦測定を報告するものである．これまでグラファイト基板上の4He吸着膜に関する研究では、グラファイト基板としてグラフォイル（Grafoil）が多く用いられてきた．今回、グラファイト基板上の4He吸着膜の摩擦現象に対してより明瞭な知見を得るために、単結晶から膨潤処理したグラファイトを基板として用いた．膨潤化した単結晶は、グラフォイルに比べ原子的に平坦な部分が大きく、膨潤化後も微結晶の方位が揃っている．基板の結晶の質の違いによる4He吸着膜の摩擦力を調べることは興味深い．走査型トンネル顕微鏡などで表面の観察を行い表面のキャラクタリゼーションも行った．測定は、面密度・温度・振動振幅を変数とし共振周波数を追尾して行われた．水晶マイクロバランス法の原理から周波数の減少は吸着膜の追従量に比例する．図1に面密度の関数としての共振周波数変化を示す．膨潤単結晶グラファイト基板では、グラフォイル基板よりも吸着膜の追従量が吸着膜の層の完了を除いて少なく、膜がよく滑っている．3原子層膜での高い振動振幅での測定結果を図2に示す．グラフォイルと同様の温度、面密度でスリップとその超流動による抑制が観測される．今回の単結晶グラファイト固有の特徴は、スリップ量が超流動転移温度Tcより高温側からなだらかに減少していることである．また振動振幅の関数としてのスリップ量がグラフォイルよりも大きい．3原子層膜の低い振動振幅での測定では、超流動転移のみが観測される．超流動の観測割合はグラフォイルよりもかなり大きな値となり、超流体の流れを妨げる基板の欠陥などが少ないことを示しており、スリップ量が大きい結果と矛盾しない．3原子層膜でのスリップは振動振幅を低い値に切り替えると準安定状態となり時間をかけて緩和する．各面密度で温度ごとに緩和を測定した．図3に緩和時間のアレニウスプロットを示す．超流動転移しない膜では、緩和は熱活性型である．一方で超流動転移しうる膜では低温域でアレニウス則から逸れて減少に転ずる．この現象は、膨潤単結晶グラファイトではじめて観測された現象である．従来提案された転位運動と超流動による質量補填の関係というメカニズムから、超流動の前駆現象が観測されたと考えている．