Ecological studies on the infection sources of pine wilt (I) : Population dynamics of pine wood nematodes in the withered stems of Japanese red pine

摘要

マツの材線虫病の感染源である枯死アカマツ樹体内に於ける病原線虫 Bursaphelenchus xylophi1us の個体群の動態を, その個体群密度, 分布様式, 定着度, 特殊ステージである分散型第3期幼虫 (以下L_III 幼虫とする) の出現率などを通して調査した。調査にあたっては供試丸太の半数に殺虫剤処理を施し, その影響下にある丸太内の線虫の動態を無処理区 (対照区) との間で比較するという方法を採った。また材の含水率や同じ丸太内に生息する自由生活性線虫 (以下自活性線虫) との関係にも留意した。調査結果の概要は次のようなものであった。(1) マツノザイセンチュウの丸太内密度は11月以降に次第に減少し, 5月には例外なくきわめて低いものとなったが, その密度は調査期聞を通じて材の合水率とは弱い負の, そして自活性線虫の密度とは弱い正の相関を示した。また, マツノザイセンチュウは11 - 1月には丸太内で集中分布していたが, 3月には一たんランダム分布に傾き, 5月には再たび著しい集中分布を示した。このような密度や分布傾向の推移に殺虫剤はほとんど影響しなかった。(2) マツノザイセンチュウ個体群の丸太内での定着度は秋から春にかけて次第に低下し, 伝播者マツノマダラカミキリ (以下カミキリ) の蛹室への移動・集中を伺わせた。(3) マツノザイセンチュウ個体群に於けるL_III幼虫出現率は, 11月には母集団であるマツノザイセンチュウ密度とは負の, 材の合水率とは正の相関を示し, 3月には自活性線虫密度と正の相関関係を示した。(4) 材内のマツノザイセンチュウの密度や分布状態とそとから脱出したカミキリの保持線虫数の間には因果関係は見い出せなかった。(5) 枯損状態の異なる3群の異常 - 枯死木樹体内での線虫類の分布状態を比較したところ, マツノザイセンチュウ個体群の12月から5月にかけての変動性は, 異常発現が遅れ材の変性が抑制されている枯死木に於いて高く, 異常発現が早く材の変性が進んだ枯死木に於いては定常的であった。一方自活性線虫はこれとは全く逆の傾向を示し, 両種線虫の生活形態の違いを示唆した。