30年後の文化財保存科学

摘要

編集委員から30年後の夢物語を書くようにとのご依頼を受けたとき、私の心の中にすぐ約半世紀前の学生時代のことが浮かんできた。 京都大学大学院の博士課程では理学部分析化学講座の石橋雅義教授が指導教授であったが、先生は良き帝国大学時代の風格と見識を備えておられた。たとえば著名なポーリング博士が石橋先生の研究室を訪ねて来られたときには、研究室の先生方と一緒に私たち学生も全員呼ばれ、一人ずっ名前を呼んで博士に紹介されたが、そのときの博士の穏やかな言葉と握手したときの大きながっしりした手の温かみは今でも鮮やかに心の中に廻ってくる。 石橋先生は私たち若者にも偉大な学者に親しく接する機会を与えて下さったものと感謝している。