自動車の安全運転支援システム

摘要

自動車の運転事故防止のためには，運転者対策と自動車や道路の対策が必要である．ただし，道路や自動車の安全性が改啓されても，現在のところ，人の関与なしに，方向制御と速度制御を一般の道路で安全に行いうる自動車は実現されていない．ところで，自動車の運転事故はほとんどが衝突によって発生する．衝突は，当該車両の進行方向にある衝突可能性のある対象または転落箇所までの距離（進行方向空間距離）が当該車両の停止距離よりも短い場合に発生する．停止距離は空走距離（制動を開始すべき物理的な状況の発生した時点からブレーキペダルを踏む時点までに走行する距離）と制動距離（ブレーキペダルの踏下時点から静止するまでの走行距離）の和からなる．機械的な支援がない場合の空走距離は，運転者の認知·反応時間と車速の積以下にはできない．また，制動距離も，車速や道路とタイヤ間の摩擦力などで決まる制動距離以下にはできない．すなわち，停止距離は，必ずある値以上となる．従って，進行方向空間距離が停止距離以下となった場合には，衝突が発生する．ところで，運転者にとっては自己の認知·反応時間や制動距離は不明である．すなわち，停止距離は運転者には不明である．一方，進行方向の空間距離の推定においても，人の知覚誤差は大きく，また，多くが過大評価を行っていることが知られている．従って，人が自己の知覚能力で停止距離以上の進行方向空間距離を保持しようとしても，現実には，困難といえる．このようなことから，衝突条件を満たさないためには，停止距離及び進行方向空間距離の推定·表示システムが必要とされよう．一方，覚醒水準の低下した場合などのように，人には自己を統制できない状況がある．覚醒水準の低下した状態の検出機能，及び，その状憶における運転者への対処機能も必要であろう．本稿では，自動車運転における事故（衝突，転落）の発生メカニズム，及び，安全な運転を行わせるためには運転者の支援が必要であること，また，その方法について述べる．