気づいた時が考える時

摘要

巻頭言を書かせていただく機会を賜り大変光栄に存じます。気が付けば退職が近づいて来て昔のことを思い出すことが多くなりました。反省することが多くあの時もっとこうしておけばよかったと思うことも多々あります。問題に気づきながらその時によく考えずに大事なことを置き去りにしてしまったことは特に悔やまれます。40年前の私がまだ学生のころは研究をとりまく環境は節約と工夫が求められる時代でした。厳しいながらも温かい先生方に毎日お叱りを受けながら実験に追われる日々でしたが皆活力に満ちていました。ChemDrawやPowerPointの無い時代には，学会発表の前には定規を使い白紙にロットリングをして構造式を書き，タイプライタ一でヘテロ元素を打ち込み，出来上がった原稿を写真に撮り現像してさらに反転してスライドにするという長時間を要する作業が必要でした。すべてをアナログな手作業で行うため器用さと忍耐力が必要で貴重な経験でした。この間の目を見張るようなデジタルなツールの発展により研究を取り巻く環境は一変し新たな活動時間を生み出したと感じています。しかしなぜか先生方は以前よりも忙しくなつているようにも感じられます。