自由な研究を楽しむ

摘要

私は熊本大学発生医学研究所ゲノム神経学分野で,核酸高次構造と神経変性に関する研究を行ってい る.生まれは福島県の古殿町という片田舎（地酒と流鏑馬祭りが有名）で,東北大学薬学部進学後,薬理学 分野を主宰されていた福永浩司教授の下で神経薬理学を学んだのが研究人生の始まりである.当時,福永 研で助教をされていた塩田倫史先生が現在の指導教員で,福永先生が熊本大学出身であることも相俟って 様々な縁を感じる.さて，はじめに『核酸高次構造』と述べたが，多くの方が「核酸高次構造って何?」 と思われたのではないだろうか.DNAは二重らせん構造，RNAは一本鎖というのが一般的な理解かと 思われるが,実はD NA/RNAはそれぞれ多彩な高次構造をとり,それらの多様な構造が種々の生体機能 調節に密接に関与していることが明らかになりつつある.核酸高次構造の研究には,物理化学やバイオイ ンフォマティクスに基づく多角的な解析が必要であり，薬理学が研究の基盤であった私にとって異動当初 は苦労の連続であった.しかし,発生研はサイエンスに関し教授，その他教員，学生の区別なく自由かつ 対等に議論できる環境が整っている（特に塩田研の環境が良い）とともに，実験手法について異分野の先生 や学生からの適切なアドバイスもあって，それなりに研究できるようになった.コロナ禍でリモート会議 が主流になったことも後押しとなり，私が主体となった他大学の多くの先生方との共同研究も精力的に展 開している.このように研究は本来『自由』なものであり，自身の研究分野の垣根を越えて異分野に飛び 込むことで多くの課題を解決でき，さらには新規テーマ開拓につながる可能性が大いにあると思う.また 研究遂行には，立場に関係なく自由に意見交換ができる研究環境が重要だと考えている.読者各位も『自 由な研究』を存分に楽しんでいただきたい.