動悸

摘要

動悸とは，普通では自覚されない心臓の拍動やその乱れを自覚することを指す.動悸は主に，①不整脈に起因する脈の欠落の自覚，②脈拍の増加の自覚，③拍動を強く自覚する,に分類できる.また,動悸を主訴に外来を受診した患者の84で原因が特定され,そのうち43が心原性（不整脈,弁膜症，心筋症，粘液腫など.肺塞栓も含む），31が精神的なもの，10がその他の原因（薬剤性，甲状腺機能亢進症,貧血など）とされている.動悸の原因疾患は大きく心原性と非心原性に分類され,非心原性の原因疾患も多岐にわたる（表1）.動悸のレッドフラッグサインとして,胸痛，息切れ?呼吸困難，失神がある.これらの随伴症状がある場合は，虚血性心疾患，心筋症などの致死的な心疾患を必ず除外する必要があり，12誘導心電図，心エコーなどの精査を行う.動悸のレッドフラッグサインがない場合，また12誘導心電図や心エコーなどで緊急性の高い心疾患が否定された場合,非心原性の動悸の原因疾患を鑑別を進める.黒色便を伴う動悸の場合,上部消化管出血による貧血で動悸を生じている可能性が高くなる（表2）.上部消化管出血の原因は多岐にわたるが，上部消化管出血による貧血で動悸を生じている場合は,バイタルの安定化および上部消化管内視鏡検査による精査加療が必要となる.また，上部消化管出血以外にも貧血をきたす原因は多岐にわたる.月経がある女性であれば月経過多による鉄欠乏性貧血， 胃切除後やアルコール使用障害の患者であればビタミンB_12欠乏による巨赤芽球性貧血でも動悸をきたす.さらに高齢者であれば，悪性腫瘍（胃癌や大腸癌など）による鉄欠乏性貧血も重要である.黒色便の病歴がなくとも,身体診察で眼瞼結膜貧血や起立試験での血圧低下?頻脈を認 めれば,貧血を疑う問診（婦人科疾患の既往，胃切除の既往など）も同時に行っていく必要がある.