火山ガス·噴煙の大気拡散と環境影響

摘要

世界にある活火山の約10が日本列島とその周辺に存在する。活火山が引き起こす現象は，その火口から出される溶岩流や火山灰によって，周囲の地形や環境を大きく変化させ，場合によっては暴風，豪雨，豪雪，洪水，高潮，地震，津波等による災害と同様に，社会に甚大な影響を与えると認識されている。しかし火山災害は，想起される溶岩流や降灰によるものだけでない。これはさまざまな災害要因を内包しており，社会への負の影響を軽減するためには，平常時から多種多様な防災·減災対策が必要である。現在，少しずつ知られるようになってきた火砕流や融雪型火山泥流，火山ガスや土石流など，さまざまな要因が引き起こす火山災害に加え，近年では，以下のような火山災害も見られるようになった。【南太平洋トンガ近海海底火山噴火】2022年1月15日（現地時間）南太平洋トンガ近海に存在するフンガ火山の大規模噴火は，周辺の国々はもちろん，約8,000km離れた日本にも大きな影響をもたらした。この火山は太平洋プレートの沈み込みに起因する島弧に位置し，日本の伊豆諸島，三宅島，西之島，福徳岡ノ場とその成因や特徴がよく似た海底火山として知られている。今回の噴火が日本に与えた影響の特徴のひとつに，想定を超えた海面変動（潮位変化）がある。海面変動を引き起こす原因には，高波，うねり，高潮，津波があるが，今回の噴火による海面変動は，そのどれにも当てはめづらい。日本では，噴火の7時間20分後に海面変動が観測され始めたことから，その到達速度は約1,100km/hにも達したことが明らかになった。これは一般的なジェット機の巡航速度800～900km/hよりも速い。その原因は大気波動との共鳴であったことが示唆されているが，今後の研究が待たれる。