仁井田本家 米倉庫/酒蔵の建築群

摘要

300年以上にわたって酒造りを営む酒蔵は，老朽化した社屋の建て替えを機に，人が集うことのできる酒蔵としてリニューアルすることを望んだが，移築や増築を重ねた既存建物の一部が，各種法規に適合しないという問題を抱えていることが分かった.それらの是正には大掛かりな工事が必要だが，酒蔵は次代のためにこの難題に取り組む決心をした.私は複雑な建築群の状態調査をはじめ，是正を進めつつ酒蔵の環境の魅力を引き出すための減築，改修，改築方針を整理し，建築，外構，什器の設計を通して酒蔵の環境整備に伴走している.自給自足を掲げる酒蔵*に倣い，自社山から切り出す木材，資材庫に眠るさまざまな材料，解体で得る材料を活用して環境を再構築する.複雑で魅力的な環境を理解するため，原広司著の『集落の教え100』に倣い,環境に内在する概念を写真と言葉で捉えた.そこで得た数々の発見—たとえば，神事と関係の深い酒造りにおいてハレとケが建築群の隙間に表れること，その隙間は製造効率の追求とは真逆の構成原理によって生まれてきたことなどがプロジェクトの道標となっている.