鉄道車両の衝突安全性を評価する

摘要

鉄道の安全対策として，万一の衝突事故時に乗客や乗務員の被害を軽減する車体構造は重要です。しかしながら，我が国において，車体構造の設計基準は必ずしも衝突事故を想定しておらず，衝突条件や車両の衝突安全性を評価するための指標が明示されていません。一方，欧州や米国では，車両の衝突安全性に関する設計基準がありますが，それらの内容は異なります。例えば，に示すように，想定する衝突シナリオは，欧州では列車同士，貨車との衝突，障害物との衝突(踏切事故を想定)であるのに対し，米国では列車同士の衝突を設定しています。また，設定された衝突シナリオで衝突させた際に，車内の安全性を評価する方法として，欧州では車体の衝撃減速度の平均値を指標としているのに対し，米国では最大値を指標としており，それぞれの指標には限度値が設定されています。これらの評価方法を説明するために，車体が衝突した際の，車体の速度と衝撃減速度の時刻歴の例をに示します。衝突は一瞬の出来事であり，きわめて短い時間で車体の速度が低下します。は衝突後0.3秒間の変化を示していますが，黒線のように車体の速度が徐々に低下します。この車体の減速の程度を表すのが衝撃減速度であり，紫線のような波形となります。この車体の減速度波形に対し，に示すように，平均値で評価するのが欧州規格，最大値で評価するのが米国規格となります。なお，後述の提案手法である車体減速度の積分値は，緑色で示す面積となります。