エッセイ：ペトラローナ?ハウス

摘要

2021年6月19日。ヴァッサニ通りのカーヴを曲がればそろそろペトラローナ?ハウス(30～51頁)が姿を現すはずだが、どうもそれらしきものが見当たらない。それも道理で、うっかり通り過ぎてしまうほどに、2階建ての立ち並ぶこの住宅街にすっかり溶け込んでいる。これが第一印象で、まさしくヨーゼフ?ボイスの望んだものでもある。「これもまた大芸術ならではのもので、つまり大芸術は押しつけがましくなく、むしろ背景と完全に同化し、ほとんど自然の一部と化します。ギリシャ神殿は、隣のオリーヴの樹のほうがよほど美しいと言う。その逆もまた然りで、オリーブの樹のほうも、神殿の美しさにはとうてい敵わぬと言う。両者が完全に一体となり、相互貫入する。これを調和といわずして何と言えましょう。ところが、いわゆる大量消費主義にはそれがない。なぜならば、何かを芸術として愛でようとしないから。そうなると芸術は、もはやルーティン化した営利活動でしかなくなります」。そして実際、この住宅が向かうのは、献身と愛の建築である。都市への愛ゆえに、都市に溶け込む。建築への愛ゆえに、特異な流儀で建築を喜びいっばいにひたすら讃える。