倫理と線引き

摘要

ロシアによるウクライナの原子力発電所への武力攻撃は，原子力利用をめぐる倫理的判断にも影響を及ぼすだろうか。まずは，武力攻撃が原子力災害をもたらすリスクを，現実的な考慮対象として扱わざるを得なくなった。同時に，原子力を使わないという社会的判断が，他国へのエネルギー依存度を高めて自国のエネルギー危機を招き，さらには他国において戦争の遠因となる可能性をも見せつけられている。もっとも，これらは決して目新しい論点ではなく，安定供給や地政学的視点は，伝統的にエネルギー政策の重要な一部を形成してきた。しかし，近年「倫理」の名の下に行われた判断や言論では，そのような危機と比較してもなお，あるいはそのような危機と比較すること自体が不適切と考えられるほどに，原子炉事故のリスクが受け入れ難いものとして扱われている。