土砂流出モデルWEPPによる畑地における 土壌流亡対策の効果予測

摘要

農地からの土壌流亡 土砂流出は、肥沃な土 壌の流出による農地の生産力低下や土砂堆積によ る排水路の機能低下を引き起こす。また、排水路 に流入した土砂は下流の湖沼等に流出し、土砂に 含まれる栄養塩類とともに水環境を悪化させ、水 生生物の生育環境や漁業への影響が問題となる。畑地地域からの土砂流出を抑制する方法とし て、侵食を抑制する発生源対策、侵食された土 壌を水路に入る前に捕捉する水際での対策、水 路内に入つた土砂を捕捉する水系での対策があ る。これら土砂流出対策を効果的に実施するに は、対策を地域内で実施した場合の効果を事前 に予測することが重要であり、予測手法として 土砂流出モデルの利用が有効と考えられる。農林水産省発行の土地改良事業計画指針「農 地開発（改良山成畑ェ）」には、土壌流亡量を予測するモデルとしてUSLE (Universal Soil Loss Equation)の利用方法が示されている。 USLEは米国農務省で開発されたモデルで、侵 食（とくに水食）に対する圃場の土壌保全計画 のために利用され、日本でも広く普及している。 USLEは6つの係数を乗じるだけで圃場の土壌 流亡量を算出可能であるが、経験モデルであり 係数に物理的意味はほとんどない。そのため、 新たな土砂流出対策の効果をUSLEで表現するには、まずは現地試験によりパラメータを取得しなければならない。一方、USLEと同様に米 国農務省で開発された土砂流出モデルWEPP (Water Erosion Prediction Project)は、降水 が表面流去水となって土壌を侵食する過程を物 理則に沿って計算する物理モデルであり、作物 成長モデルによる地表面の被覆状況の変化ゃ圃 場管理による土壌条件の変化等を予測計算に反 映させることができる。作物成長モデルゃ圃場 管理による土壌状態の変化等に関するパラメ一 タはコンピュータープログラム内に用意されて おり、農業者の圃場管理による土壌流亡対策(例 えば、受食性の高い作物への転換ゃ耕耘作業の 追加等）をパラメータの変更で表現可能である。 本稿では、WEPPによる解析事例として、 国立研究開発法人農業食品産業技術総合研究 機構農村工学研究部門と地方独立行政法人北海 道立総合研究機構中央農業試験場（以下、道総 研と記す）が土壌流亡対策として普及を進めている土層改良や後作緑肥の部分不耕起1)(以下、 不耕起帯と記す）の効果予測に利用した結果を 紹介する。