2020年急性大動脈スーパーネットワークの実績報告

摘要

世界的な新型コロナウィルス蔓延により，東京都CCUネットワーク，大動脈スーパーネットワークでの緊急時搬送体制は大きく影響を受けた。多数の基幹施設が感染性の高いコロナ感染症重症例?中等症例を 収容する拠点病院としての任務を果たすことを余儀なくされた。とくにスーパーネットワーク重点病院各 施設の受入停止は冬季の発症数増加に対応できるか否か瀬戸際の状態であった。受入停止?再開のネット ワーク内早期連絡，受入困難地域からの遠距離搬送を含む協力体制継続が行われ，例年同様に大動脈緊急症患者の救急診療を遂行せしめた。急性大動脈解離（AAD）と大動脈瘤破裂（AAR）よりなる大動脈緊 急症に対応する急性大動脈スーパーネットワークの2020年活動実績を報告する。急性大動脈スーパー ネットワークは，循環器内科CCU*心臓血管外科?救命センターが受入組織として集計に加わり，3力 月毎に年に4回の患者数集計を行い，全体会議を年に2回開催し加盟施設と行政?救急が一堂に会し， 集計結果を公開し施設間で意見を交換してきた。6月の定期全体会議で，過去3年間の緊急大動脈症の診 療実績より，規定に基づき施設数増減があった。24時間常に緊急大動脈外科治療可能な「緊急大動脈重 点病院」は14施設となり1施設減少，毎日24時間は無理だが緊急大動脈手術を優先実施する「緊急大 動脈支援病院」は26施設を数え，緊急症患者の迅速な受入が実施されてきた。疾患別患者数調査によれば， 2020年1月1日?12月31日の1年間にて，AADは1，548例に発症した（院内死亡17.3%）。一方， AARは370例（院内死亡29.3%）であり，総計1,918例（院内死亡19.8%）であった。これらの患者 には主に救命センター収容のCPA167例（全体の8.7%）も含んだ。AADのStanford A型，AARは発 症後超早期の根治的外科手術を要し，実施できた患者群の急性期死亡は減少しおのおの9.0%，11.4%で あった。外科治療なしの患者の院内死亡はおのおの66.0%, 65.6%と極めて悪かった。本症患者は外科 治療の即時対応が不可能な施設から可能な重点?支援施設に搬送されるが，今期は77例（4.0%）が施 設間移動したに過ぎなかった。コロナ感染症COVID-19の蔓延が，致死的本症への急性期医療を妨げは したが，東京都の緊急大動脈診療は協力体制により何とか対応可能であった。