犬の乳腺腫瘍 概要

摘要

乳腺は,哺乳類のみに認められるアポクリン腺から派生し た分泌腺である。犬には,通常左右一対,10個の乳腺が存在す る（まれに8個あるいは12個の乳腺を有する個体も存在す る）。乳腺は,胸部乳腺（第1,第2乳腺）および腹部乳腺（第3. 第4乳腺）,鼠径部乳腺（第5乳腺）に分けられる。小型犬では, 鼠径部乳腺に乳頭をもたない個体も存在する。犬の乳腺腫瘍では.乳腺領域に少なくとも1つの触知可能な 腫瘤を認める。胸部乳腺での発生よりも尾側領域の乳腺（第4, 第5乳腺）での発生が多いとされる（図1）。未避妊雌の70%で 診断時に複数の乳腺腫瘍を有していたとも報告されている" （図2 ）。また，犬の乳腺腫瘍では，診断時に腫瘍は乳腺領域内 に限局しており一般状態は良好であることが多い。しかしな がら，炎症性乳がんの場合には，紅斑や腫脹,疼痛を伴い，滲出 液の排出やリンパ管閉塞を引き起こす可能性があり，乳腺腫 瘍に隣接した四肢は腫脹や跛行を伴う場合がある。また，炎症 性乳がんに罹患した犬では,遠隔転移あるいは全身性の症状 を示す場合が多い。